ハワイからのコンテンツ: 海の中を覗いてみれば

オウムガイの話

前回はワイキキ水族館のお話をさせて頂きましたが、ワイキキ水族館の中でひと際暗くて目立たないのがオウムガイの水槽です。一見地味なために子供達には無視されがちですが、実はワイキキ水族館では繁殖の研究も行われていて、私にとってはこの水族館の中で最も興味のある一押しの水槽だったりします。そこで今回は、このオウムガイについてお話したいと思います。 オウムガイは名前に「カイ(貝)」と付いてはいますが、同じ軟体動物でもどちらかというと貝よりはタコやイカに近い頭足類の仲間です。オウムガイの殻は巻貝のようにも見えますが、内部は普通の巻貝と違い、アンモナイトのように幾つもの部屋に仕切られています。体が収まっているのは一番入口に近い部屋で、その奥の部屋達に入っているガスで浮力を調節しています。生まれた時には部屋は4つしかないのですが、大人になると30部屋にもなるそうです。殻の入口からはたくさんの触手が覗いていますが、この触手はなんと90本にもなります。確かにこの触手だけに注目すると、何気にグロテスク。しかしこの触手達には味覚器が付いていて、ここで餌の場所や種類を認識しています。触手の後ろには大きな目がありますが、この目にはレンズがなく視力はあまり良くありません。 オウムガイは「生きた化石」と言われていますが、それは約5億年前に誕生して以来ほとんど変化していないからです。現在は西太平洋にしか生存していませんが、5億年前にはオウムガイの仲間が世界の海を席巻していたそうです。見れば見るほど不思議なオウムガイ、ワイキキ水族館では絶対に見逃せない水槽です。...

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ワイキキ水族館

先日、久しぶりにワイキキ水族館に行ってきました。カラカウア通りをダイアモンドヘッド方面にしばらく歩いたところにありますが、トロリーなども停まるので観光客の方にも人気の場所です。この水族館、実はハワイ大学の付属施設なので、私は大学関連のパーティーや教育イベントなどで度々訪れます。そこで今回は、このワイキキ水族館のお話をさせて頂きます。 先述の通り、ワイキキ水族館はハワイ大学の施設なので、よく学生がバイトとして働いていたり、課外授業が行われたり、学生の研究の場となったりもします。私の友人も何人もここでバイトしていました。水族館としては小規模で、あっという間に全ての展示を見終わってしまいますが、その分隅々まで手入れが行き届いています。ボランティアで働いている方々も多く、屋外のタッチプールでは、彼らが色々説明してくれたり、ウニやヤドカリを触らせてくれたりします。 この水族館の目玉は、やはり絶滅危惧種のハワイアンモンクシールでしょう。屋外の水槽で2匹のモンクシールを身近に観察する事ができます。最近始まったアオウミガメの展示も見逃せません。ちなみにこのアオウミガメたちは、シーライフパークで産まれてワイキキ水族館に貸し出されているものです。水族館の入り口では日本語音声ガイドも無料で貸し出しているので、是非それを片手にゆっくりと館内をまわって見て下さい。...

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ヒゲクジラとハクジラの話

前回、前々回と続けてクジラとイルカのお話しをさせて頂きました。冬のハワイの代名詞ザトウクジラはヒゲクジラですが、イルカはハクジラの仲間です。そこで今回は、このヒゲクジラとハクジラは何が違うのか、もう少しお話しさせて頂きたいと思います。 ヒゲクジラ亜目に属するクジラ類は歯を持たず、上あごから生えている「クジラヒゲ」を使ってオキアミや小魚など、ごく小さな生き物を大量に濾して食べます。小さな生き物を食べる割には身体が大きく、地球上で現在生息している中で最大の動物であるシロナガスクジラも、このヒゲクジラの仲間になります。一方のハクジラ亜目に属するクジラはというと、もうお分かりだと思いますが歯を持つクジラの仲間で、主に魚を補職します。ハクジラはヒゲクジラよりも小型で、イルカやシャチもハクジラの仲間です。面白いものでは、角があるイッカクもハクジラですが、実はイッカクの角は歯が変形したものなのです。 歯の有無の他にヒゲクジラとハクジラが違うところは、頭の上にある噴気腔(呼吸するための穴)の数で、ヒゲクジラは2つ、ハクジラは1つです。また、イルカは周囲の状況を高周波の音の反響で探るエコロケーションを行いますが、ヒゲクジラにはその能力がありません。以前にも何度かお話しましたが、イルカとクジラには生物学的に明確な違いはありません。体長が4m以下のハクジラの仲間をイルカと呼んでいるだけなのです。...

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イルカの話

前回はザトウクジラのお話をさせて頂きましたが、クジラの仲間で誰からも人気な動物といえばイルカですね。多くの水族館でイルカショーは目玉になっています。ハワイのシーライフ・パークでもイルカショーをやっていますが、やはり何度見ても楽しいものです。そこで今回は、イルカのお話をさせて頂きたいと思います。 イルカはクジラ目ハクジラ亜目に属する哺乳類で、その中でも特に約4m以下の小型のものをさします。実はイルカとクジラに生物学的に明確な差はなく、体長4mを境にそれより小さいものをイルカ、大きいものをクジラと呼ぶことが多いです。イルカは餌を探したり周囲の状況を知る手段としてエコロケーション(反響定位)を使います。エコロケーションとは、自分が発した音が何かに当たって返ってきたものを受信することによって、その物と自分の位置関係を知る方法です。面白いのは、イルカは返ってきた音を耳ではなく下あごで受信し、その振動が骨を伝って内耳に届くということです。 イルカについてもう一つ面白いのが、イルカは脳の半分を片側ずつ交互に眠らせることができるらしいということです。右の脳が寝ている時は左目を閉じ、反対に左の能が寝ている時は右目を閉じているらしいです。以前、シーライフ・パークでも片方だけ目をつぶっているイルカを見た事がありますが、あのイルカも半分だけのを眠らせていたのでしょうか?私もそんな器用なことができたら便利だな~、とちょっとうらやましく思いました。...

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ザトウクジラの話

常夏と言われるハワイですが、1年を通して微妙な季節の移り変わりを感じる事はできます。雨が多くなり肌寒くなってくると、今年も冬が来たな、と思います。冬のハワイといえばクジラ。船でホエールウォッチングのツアーに行かれた事がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?ハワイでこの時期見られるのはザトウクジラです。そこで今回はこのザトウクジラのお話をさせて頂きます。   ザトウクジラはヒゲクジラ(上あごについたクジラヒゲでオキアミや小魚などをこして食べるクジラ類)の一種で、体長は11-16m、体重は25-30tにもなります。以前、生まれたばかりの子クジラの死体解剖のお手伝いをした事がありますが、その子ですら1t以上ありました。非常に長い胸びれと、上あごと下あごにあるこぶが特徴です。ハワイに現れるザトウクジラは、夏の間は北極付近で主に捕食をし、冬になると繁殖活動、出産、子育てのために暖かいハワイにやってきます。 ザトウクジラは尾びれの内側(腹側)の白黒模様が個体によって異なるので、この模様によって指紋のように個体識別をする事ができます。また、ブリーチングと呼ばれるジャンプをするので、運が良ければ陸からでもその姿を見る事ができます。私もハナウマ湾の先を車で通っている時に3回連続ジャンプを見る事ができました。冬のハワイでハナウマ湾方面にドライブされる時は、展望台に立ち寄って海を眺めてみると、クジラのジャンプが見られるかもしれません。...

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海苔の話

我が家の6歳になる長女は最近海苔が大好物。彼女の学校では休み時間に食べるおやつを持参する事になっているのですが、味付け海苔を持って行く事もしばしば。海苔は紅藻類の海藻をシート状の板海苔と呼ばれるものに加工したものです。今回は、日本人にとって最も馴染みのある海藻の一つ、海苔のお話をさせて頂きたいと思います。 海苔の原料となる海藻はウシケノリ科アマノリ属(科学名Porphyra)に属しています。Porphyraの仲間はハワイにも一種類存在し、ハワイアンも食用として採取していました。しかしオアフ島ではあまり見かけられず、見られる季節も限られているので、私がまだ学部生で海藻のクラスを取っていた時にこの海藻を見つけた時は、助手の大学院生に「僕も見た事ないのにスゴイね。」と褒められました。 昭和20年代前半まで、海苔の養殖は網などを海中に張り、そこに自然に胞子が付着して海藻が育つのを待つだけでした。しかしイギリスのDr. Kathleen Drew Baker が、海苔の胞子が春から秋まで、貝殻の中に潜り込んで 過ごす事を発見しました。この貝殻の中で生息している状態は糸状体と呼ばれ、海苔とは全く異なる姿形なのです。Dr. Drew Bakerの発見から日本の海苔の養殖は一気に発展しました。現在は人工採苗と言う、糸状体を貝殻の中で人工的に育て、糸状体からできる胞子を網に付着させて海苔を育てる養殖法になっています。海苔の養殖漁場として有名な有明海沿岸の宇土市には、Dr. Drew Bakerの功績を讃える碑が立っていて、毎年4月14日には「ドゥルー祭」が開催されます。...

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エイの話

以前、エプソン品川アクアスタジアムで出会ったノコギリエイとマンタのお話をさせて頂いた事があります。今年の夏に行ったサンシャイン水族館でも、大きな水槽にマンタが悠々と泳いでいました。そういえば、子供の頃は水族館で見るエイのお腹が顔のように見えるのが面白くて、結構好きな魚だったのです。そこで今回はエイのお話をさせて頂きたいと思います。 エイはサメとともに軟骨魚類に属する魚で、他の魚と違い全身の骨が軟骨でできています。サメとエイは鰓(エラ)の付いている場所で区別されます。鰓が体の側面についているのがサメ、腹側についているのがエイです。 顔のように見えるエイのお腹ですが、目のように見える二つの穴が鼻孔です。本当の目は背側についています。お腹の下のほうに左右に5~6対あるのが鰓です。体が水平方向に平らで胴と胸びれが一体になっていて、その胸びれをひらひらさせて泳ぐのが特徴です。 細長い尻尾もエイの特徴ですが、アカエイなど尾の先に毒針を持つ種類もあります。アカエイの毒針は背びれが変化したものです。アカエイは日本の沿岸でも良く見られ、浅い砂底に潜って生息しています。子供の頃、潮干狩りに行った時、「アカエイに注意」の看板があったのを覚えています。刺されるのは怖いけど、水族館で見るあの「かわいい顔」のエイが本当にいるなら見てみたいな、と思ったものでした...

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ペンギンの話

すみだ水族館の目玉の一つはペンギンの水槽で、私達が6月に訪れた時はちょうどペンギンの赤ちゃんが特別に展示されていました。残念ながら、私達は見る事ができなかったのですが・・・。サンシャイン水族館にもペンギンがいますし、ペンギンを展示している水族館は結構あります。そこで今回は、このペンギンのお話をさせて頂きたいと思います。 ペンギンの仲間は世界で17種存在します。一番小さい種はコガタペンギン(フェアリーペンギン)で体長40cmほど、一番大きい種はアカデミー賞を受賞した映画でも有名なコウテイペンギンで、体長は130cmになることもあります。ペンギンと他の鳥との一番の違いはやはり飛べないこと。翼に当たるものが海の中で泳ぐためにヒレ状になっています。海の中ではこのヒレ状の翼を羽ばたかせるようにして泳ぎます。もう一つ、他の鳥達との大きな違いは、ペンギンは体を直立させているということです。飛べない鳥は他にもいますが、体が立った状態なのはペンギンだけです。 何年も前に取っていた授業で、ペンギンは南半球にしかいないと習いました(実際はガラパゴス諸島に生息するガラパゴスペンギンが、赤道を超えてわずかに北半球の端にも分布しています)。その授業の期末テストで、シロクマはペンギンを餌にする、○か×か?という問題が出ました。シロクマの餌の話は授業であまり触れられなかったので一瞬頭が?となりましたが、シロクマは北極圏にしか存在しないこと、逆にペンギンは南半球にしかいない事を思い出しました。そう、シロクマとペンギンが一緒にいるのは、お話の中だけなのです。...

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アシカとアザラシ

池袋サンシャイン水族館では、屋外にリング状の水槽が中空に据えられていて、アシカが泳ぐ姿を下から見る事ができます。前回私達が訪れた時にはやっていませんでしたが、アシカのショーも行われているようです。アシカは各地の水族館のショーで大活躍ですね。一方、アシカと似た動物にアザラシがいますが、アザラシのショーというのは見かけません。そこで今回は、アシカとアザラシの違いについてお話ししたいと思います。 まず一番大きな違いは何かといいますと、アシカやアシカに似たオットセイは後ろのヒレを体の前の方に向けて体の下に入れることができることではないでしょうか。これができることで、アシカは前のヒレで上体を支えて地上を“歩く”ことができるのです。これに対し、アザラシは後ろのヒレを前に向けることができないので、陸上を動く時は這うことしかできません。これが、水族館にアシカのショーはあってもアザラシのショーはない理由なのです。アザラシの赤ちゃんが雪の上でゴロゴロしているのも、アシカのように歩けないからなんですね。 さらに、アシカの頭部をよく見ると、耳(耳たぶ)があるのが分かりますが、アザラシには目立った耳たぶが頭の外側に出ていません。これが2つ目の大きな違いです。次回水族館に行かれた際は、アシカやアザラシの後ろのヒレと耳たぶに注目してみて下さいね。...

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ツノダシの話

前回はディズニー映画、ファインディング・ニモの主要な登場キャラクター、ドリー(ナンヨウハギ)のお話をさせて頂きました。ファインディング・ニモにはそれこそたくさんの海の生き物が登場しますが、ニモが捕まえられた歯医者さんの水槽にも個性的なキャラの生き物が色々いましたよね。今回はその中でもボス的な存在のギルのお話をさせて頂きたいと思います。 ギルは日本名でツノダシ、英語ではMoorish Idol、ハワイ語ではkihikihiと呼ばれる魚です。ツノダシ科ツノダシ属に属する唯一の種で、熱帯のサンゴ礁に生息しています。これぞ熱帯魚、という姿形から非常に人気の高い魚です。ハワイでもスノーケル中に比較的頻繁に見る事ができます。黒くて太い2本の縞模様とオレンジ色の上あご、長くたなびく背びれが特徴です。見た目が非常に似ている魚にハタタデダイやムレハタタテダイがありますが、ツノダシは尾ひれが黒、ハタタテダイは黄色というので見分ける事ができます。 このツノダシ、人気なのですが飼育するのが非常に難しい魚と言われています。ファインディング・ニモを観る度に、ギルを長年水槽で飼っていた歯医者さんは熱帯魚の飼育のプロに違いない、と思ってしまうのです。...