ハワイからのコンテンツ: 海の中を覗いてみれば

Dr. Isabella Abbott

シグ・ゼーンといえば、ハワイ島ヒロにある、ハワイアンウェアのお店。オリジナルのデザインが地元の人にも大人気で、私もオアフでシグを着ていると「それ、シグ・ゼーンでしょう?素敵ね。」と必ず声をかけられます。そのシグ・ゼーンがワイキキ水族館とコラボしたデザインを発表しました。Ka Uluwehi O Ke Kaiと名付けられたシリーズは、2011年に亡くなったハワイ大学の海藻学者、ドクター・イザベラ・アボットの誕生日を記念して作られたものです。そこで今回は、ドクター・アボットのお話をさせて頂きたいと思います。 ドクター・アボットはマウイ島ハナ生まれ。彼女はネイティブ・ハワイアンの女性で始めて科学の分野で博士号を取得した人です。さらに、スタンフォード大学の生物科学部において初めて教授職に就いた女性でもあります。世界的にも有名な海藻の分類学者で、100以上もの論文を出版されました。彼女の名前から取って名づけられた海藻の種もあります。晩年はハワイ大学の名誉教授として精力的に活動し、亡くなる数ヶ月前まで、よく大学のオフィスで研究している姿をお見かけしました。 私がドクター・アボットと初めてお話させて頂いたのは、私がオアフではあまり見かけない珍しい海藻を見つけて採ってきた時のこと。大学院生に聞いたところ、彼も見たことが無いので隣のオフィスにいるドクター・アボットに聞いてみたらいいよ、と強く勧められました。当時私はまだ学部生で、有名な海藻学者とお話をするという突然の機会に非常に緊張したのを覚えています。ドクター・アボットは私の取ってきた海藻を見て、その珍しい種類のものに間違いないと教えて下さいました。この時の事は、私の大切な思い出となっています。...

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海藻標本の作り方

もう夏も終わりですね。ハワイの小学校は夏休みが開けると新学年になるので、夏休みの宿題がありません。しかし、日本の小学生は夏休みの宿題がたくさん出ますよね。私が小学生1年生のとき、初めての夏休みの自由研究で提出したのが海藻の標本でした。海藻標本の作り方なんて知らなかったhawainoこの時は、水分を取るために挟んでいた新聞紙に海藻がくっ付いてしまったり、標本にした海藻の種類を識別するのに苦労したりしたことを覚えています。そこで今回は、夏休みの自由研究に使えるかもしれない(?)、海藻標本の作り方についてお話しさせて頂きます。 海藻標本の作り方はいろいろあるようですが、ここでは私がいつもやっている方法をご紹介します。1)まず海で海藻を採取します。採取にはジップロックのような厚手で口を開閉できる袋が便利です。2)採取した海藻を持ち帰り、砂や付着物を取り除きます。この時、真水にしばらく浸けておくと良いらしいですが、私はちょっと洗うくらいです。3)きれいになった海藻を厚手の紙(画用紙など)の上にきれいに広げ、その上にクッキングシートをかぶせます。これで次の行程で海藻が新聞紙にくっ付きません。4)3の上下を、数枚重ねた新聞紙などの吸水紙で挟み、さらにダンボールで挟みます。5)上に錘を載せてそのまま置いておきます。6)できれば毎日吸水紙と段ボールを交換します。これで早ければ2~3日で海藻標本の完成です。 押し花と同じですので、きれいな海藻の標本ができたら、ラミネート加工してしおりなどにするのもおススメですよ。...

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ハワイアンモンクシールの話

ハワイの学校は5月が学年末、6月から夏休みです。小学1年生の長女は、学年末のプロジェクトでクラスメートと海の生き物について調べていました。先日、その成果を発表する機会があり、旦那と一緒に見に行ってきました。クラスがいくつかのグループに分かれ、それぞれ一つの生き物について調べていたのですが、その中で目についたのがハワイアンモンクシール。そこで今回は、このハワイアンモンクシールのお話です。 太平洋の真ん中にあるハワイ諸島には、固有の哺乳類は2種類しか存在しません。一つは陸上にいるコウモリ、そしてもう一つがハワイアンモンクシールです。ハワイアンモンクシールは絶滅危惧種に指定されていて、現在その数は1200頭余りと言われています。モンクシールの数を回復させるべく色々な対策が取られているのですが、残念ながら減少し続けています。一番の天敵はサメですが、捨てられた漁網などの海洋ゴミに絡まってしまうことも深刻な問題です。ハワイの他にカリブ海と地中海にもモンクシールの仲間がいる(いた)のですが、カリブ海のモンクシールは1952年に既に絶滅、地中海の方も絶滅に瀕しています。 ハワイアンモンクシールはそのほとんどが主要八島ではなく、北西ハワイ諸島に生息しています。しかし近年ではたびたび主要八島にも現れ、ワイキキでも見られることがあります。私もちょっと前にダイアモンドヘッドの下で海藻を採っていてモンクシールが寝ているのに気付かず、吠えられました。野生ではなかなか見ることが難しいハワイアンモンクシールですが、ワイキキ水族館とシーライフパークで見ることができます。...

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タツノオトシゴの話

私の友人が江ノ島でゴミ拾いを主催しています。彼らは、昔は江ノ島にたくさん生息していたタツノオトシゴをもう一度呼び戻そうと、積極的に活動しています。私はハワイで一度だけ、海藻の採取中に海の中で野生のタツノオトシゴを見た事があります。今回は、このタツノオトシゴのお話をさせて頂きたいと思います。 タツノオトシゴは、とんがった口とくるっと巻いた尻尾が特徴ですが、実は立派な魚の仲間なのです。ヨウジウオ科タツノオトシゴ属に属しています。よく見ると首に見える部分にエラ、背中には背ビレが付いています。他の魚と明らかに違うのは、直立しているところでしょう。 タツノオトシゴが面白いのは、オスが出産することです。といっても、正確にはオスが“妊娠”するわけではありません。他の魚と同様、卵を産むのはメスですが、メスはその卵をオスのお腹にある「育児嚢」という袋の中に産み落とします。卵はオスの育児嚢の中で受精し、孵化します。孵化した子供達はその後しばらくオスの育児嚢で過ごした後、オスのお腹から“出産”されます。私がハワイの海で見たタツノオトシゴはお腹が大きく見えたので、多分あれは”妊娠”したオスだったのではないかと思います。...

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ゴリラ・オゴの話

少し前に外来種の海藻のお話をさせて頂きましたが、ハワイで問題になっている外来種の海藻一つがゴリラ・オゴです。しかしこの海藻、何故かハワイでは養殖されていたりして、ポキによく使われているのです。先日も、とあるスーパーで購入したポキにゴリラ・オゴが入っていました。そこで今回は、このゴリラ・オゴのお話をさせて頂こうと思います。 ゴリラ・オゴは学名をGracilaria salicornia といい、名前からも分かる通り、よく食用とされるオゴの仲間です。しかしハワイでよくポケに使われている海藻は、スーパーやフィッシュマーケットで「オゴ」として売られているものではなく、ハワイ語でリム・マナウエア limu manaueaと呼ばれるものです。マナウエアもオゴもゴリラ・オゴと同じGracilaria属になります。 ゴリラ・オゴは1970年代に人為的にオアフに持ち込まれ、その後各地で増殖し問題を引き起こしています。ワイキキでは、大波の後などに海岸に大量に打ち上げられていることも。また、ゴリラ・オゴは一般的な海藻に比べると固く、ずっしりと重たいマット状になって増殖していきます。このマットが、ほかの固有種の海藻やサンゴが生育できないような状態を作ってしまうのです。   問題児のゴリラ・オゴですが、冒頭でもお話しした通り、養殖されて食用としてスーパーで売られていることもあります。さすがにスーパーではゴリラ・オゴではなく“robusta”と呼ばれています。マナウエアより歯ごたえがあるので、その食感を好む人もいますが、私はやっぱりマナウエアの方が好きです。...

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ウミガメと腫瘍の話

最近、長女は学校で海の生き物の勉強をしているらしく、私に色々とウミガメの話を聞いてきました。その中で話題に上がったのがアオウミガメの腫瘍の事。ハワイでも腫瘍を発症しているアオウミガメがよく見られます。そこで今回は、このウミガメの腫瘍のお話をさせて頂きます。 この腫瘍は「フィブロパピロマ」(fibropapilloma)と呼ばれるもので、1930年代頃から見られるようになったといわれています。1980年代になって、ハワイとフロリダで腫瘍を発症したアオウミガメの数が劇的に増加しました。腫瘍は目や口、首やヒレの付け根、内臓に多く見られ、大きくなるとカリフラワーのような形になります。腫瘍が大きくなると、目が見えなくなったり、摂食が出来なくなったり、内臓が正常に働かなくなったりして死んでしまいます。腫瘍の発生にはヘルペスウィルスが関係していると思われますが、ヘルペスウィルスはどこにでもいるウィルスであり、これが何故1980年代以降に爆発的に増えたのかは未だにはっきりとわかっていません。腫瘍を発症したウミガメに対しても効果的な治療方法はなく、体の外側に出来た腫瘍の切除に留まっています。 腫瘍の増加の原因の一つはウミガメの住む海域の水質汚染と考えられていますが、これも今のところ直接的な証拠は見つかっていません。水質汚染が直接腫瘍を発症させるわけではなく、汚染と共に色々な要素が複合的に働いて発症するのではないかと思われます。最近では日本でも腫瘍を発症したアオウミガメが多数見られるようになったということで、ますます早急な原因究明が待たれます。...

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オオシャコガイの話

この前、小学1年生になる長女がワイキキ水族館に遠足に行ってきました。何を見て何を学んだのか、色々と話してくれたのですが、その内の一つに屋外の広場に展示されているきれいな色の貝がありました。そこで今回は、オオシャコガイという、このきれいな二枚貝のお話です。 オオシャコガイ(英語ではGiant Clam)は太平洋、インド洋の暖かいサンゴ礁の海に生息する世界最大の貝で、体長1m以上、体重200kg以上になることもあります。ワイキキ水族館の屋内にある水槽にも、かなり大きなオオシャコガイが展示されています。寿命はなんと、100年以上もあるそうです。以前、ハワイ大学の授業中に見たビデオでは、南太平洋の島の人々がこのオオシャコガイの殻を赤ちゃんの入浴に使っているシーンがありましたが、たしかに赤ちゃん用のお風呂にぴったりです。結構古いビデオ(白黒でした)だったので、今でも使われているのかどうかは定かではありませんが・・・。 オオシャコガイの殻は波状をしていて、海底に上向きに殻を少し開いた状態で生息しています。2枚の殻の間から青や緑のきれいな色をした外套膜をのぞかせていますが、この色は共生している渦鞭毛藻の褐虫藻(以前お話したサンゴに共生しているものと同じです)によるものです。オオシャコガイがこんなに大きく成長できるのは、この褐虫藻が光合成してできた栄養分のおかげなのです。  ...

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海藻と海草

現在の私の専門は海藻で、所属する研究室も非公式に「海藻研」なんて呼ばれたりしているのですが、この「かいそう」という文字を変換すると、「海藻」と「海草」と二通り出てくるのです。どっちでも同じように思えますが、実は海藻と海草は全く別の植物なのです。海藻は英語にするとseaweedもしくはalgae(アルジーまたはアルギー)で、日本人の食卓に欠かせないワカメや昆布、海苔などを含む藻類のことです(ちなみにalgae は複数形で単数形はalga(アルガ))。一方、海草は英語でseagrassで、陸上の植物と同じような葉っぱを持つ被子植物のことをいいます。今回はこの海藻と海草のお話をさせて頂きます。 海藻は主に波の強く当たる岩場に生息していて、海水に溶け込んでいる養分を体から直接吸収します。これに対し海草は砂や泥などの柔らかい底に根をはって、そこから養分を吸収します。海藻は主に胞子によって繁殖しますが、海草は陸上の植物のように花を咲かせて種を実らせることで繁殖します。海藻と海草は進化の過程も大きく違います。陸上の植物は元々海藻から進化したものです。反対に、陸上の植物が再び海中に生息地を移したのが海草です。 海藻は持っている色素によって大きく緑藻(green algae)、紅藻(red algae)、褐藻(brown algae)の3種類に分けられます。海苔は紅藻、昆布は褐藻です。ワカメは緑色をしている気がしますが、分類上は褐藻類になります。ハワイの海には500種類以上の海藻類が生息していますが、海草はたったの2種類だけです。私も未だに、この2種類の海草が海の中に生えているのを見た事がありません。...

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外来種の海藻の話

つい先日の事。家に届いた朝刊の一面を飾ったのが、私が所属する研究室の教授でした。記事はワイキキで問題となっている外来種の海藻と、それらを除去するクリーンアップのイベントについてでした。そこで今回は、ハワイで問題となっている外来種の海藻のお話をさせて頂きます。 1950年から、ハワイの海には約20種類の外来種の海藻が入って来ました。ちなみに外来種とは、人為的に外からその土地に入って来た生き物の事です。ハワイに入って来た外来種の海藻のうち、元々ハワイに生息していた海藻を脅かすような大きな影響を与える侵略的外来種は5種類です。この5種類の中で、現在ワイキキで問題になっているのが3種あります。このうち以前から問題になっていたのがゴリラ・オゴ(学名:Gracilaria salicornia)とトゲノリ(学名:Acanthophora spicifera)ですが、ここ数年で今まではワイキキにいなかったLeather mudweed(日本名無し、学名:Avrainvillea amadelpha)がかなり広がりをみせています。 これらの侵略的外来種の海藻は非常に繁殖力が強く、在来種の海藻や産後の生息を脅かしています。私達の研究室では長年にわたってこれらの外来種の海藻に着いて研究・調査してきました。また、ワイキキのホテルやワイキキ水族館、地元の小学校や高校と協力して外来種の海藻の除去を行ったりしています。現在、海藻除去のイベントは、不定期にワイキキ水族館前のビーチで行われています。...

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タコの話

この前ワイキキのとあるビーチで海藻を取っていると、海藻にまぎれて動く物体を発見。よく見ると、それはタコでした。海の中でタコを発見したのは初めてだったので、追いかけてじっくりと観察してしまいました。ハワイでもタコはポキなどで食用としてもお馴染みで、ハワイの人には日本語で「タコ」と言っても通じます。そこで今回は、このタコについてお話したいと思います。 タコは前回お話ししたオウムガイと同じ、頭足類の軟体動物の仲間です。無脊椎動物の中でも最も高度な知能を持つと言われていて、視力が発達し、色や形を識別することができます。また、カメレオンのように、自分の周りの色に合わせて体の色を変えることができます。そのため、たまに水族館でも周りと同化していてすぐに見付けられない事があります。私が海の中で見つけた時も、見事に周りの海藻に溶け込んでいました。タコの頭に見える部分は実は胴体で、頭はその胴体の下部、8本の腕の付け根部分にあります。これはイカも同様で、つまりは頭から足が生えているということですね。そのためタコやイカは「頭足類」と呼ばれているのです。 タコやイカは敵から逃げる際に黒いスミを吐きますよね。私はたまに無性にイカスミのパスタが食べたくなります。が、噂によるとどうやらタコのスミの方がおいしいらしいのです。しかし、タコのスミはイカスミよりも加工がしにくく料理には向いていないのだとか。どうりでタコスミのパスタがない訳ですね。...