ハワイからのコンテンツ: 海の中を覗いてみれば

モンキー・ポッドの種の話

  ハワイ大学はまた卒業式の季節となり、キャンパス構内も人がまばらになってきました。この時期にキャンパスを歩いていると、必ず靴底にくっついてくるものがあります。それはモンキー・ポッドの種。モンキー・ポッドは日本の方々にはモアナルア・ガーデンの「この木なんの木」でお馴染みですね。私も親戚や友人が初めてハワイに来る時は、ほとんど皆「この木なんの木が見たいから連れてって。」と言われます。そこで今回は、このモンキー・ポッドとその種のお話をさせて頂きたいと思います。   モンキー・ポッド(Monkey Pod)はマメ科の高木で、日本名はアメリカネム、ハワイ語では‘Ohai と呼ばれています。この木なんの木のように綺麗に枝を傘のように大きく広げるので、ハワイでは公園や街路樹などによく植えられています。ハワイ語の名前はありますが在来種ではなく、熱帯アメリカ原産で、実はハワイでは侵略的外来種に指定されています。春に薄いピンクの花をつけた後、マメ科だけに大きなインゲンのような実ができ、これが黒くなると地面に落下します。そしてこの落下した黒い巨大インゲンをうっかり踏んでしまうと、中が結構ベタベタしていて靴底に張り付くのです。   この時期、ハワイ大学構内で歩いていて急に足音が変わった時は、間違いなくモンキー・ポッドの種がくっついています。くっついてしまうと普通に歩いていてもなかなか取れないので、コンクリートの段差や階段、花壇などに靴底を擦り付けて取っているのがお馴染みの風景です。...

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リム・カヒリ(ラッパモク)の話

リム・カヒリ(ラッパモク)の話 今年もメリーモナークが終わりました。通っている小学校のアフタースクールでフラを習っている長女は、毎年メリーモナークを楽しみにしているのですが、今年は特に彼女のフラの先生が出場するということで、夜遅くまで起きて頑張ってテレビ鑑賞していました。先生のハラウは見事ワヒネの総合2位を獲得し、長女も大喜びでした。個人的に印象に残っているのはHalau I Ka Wekiuのワヒネのカヒリを使ったカヒコでした。というのも、ちょうど自分の教えている海藻のクラスで「リム・カヒリ」と呼ばれる海藻について授業したところだったからです。今回は、このリム・カヒリについてお話ししたいと思います。 リム・カヒリはもちろんハワイ語での名前で、科学名はTurbinaria ornata、日本語ではラッパモクと呼ばれています。見た目が特徴的で、日本語の名前の通り、硬くてトゲトゲしたラッパ状の葉状体がたくさん茎から外側に向かって突出しています。大きいものでは20cmほどに成長し、ハワイ王族を象徴するカヒリに似ていることから、ハワイ語ではリム・カヒリ(リムは海藻)と呼ばれています。 リム・カヒリはハワイの在来種で、岩場でよく見られる海藻です。しっかりと硬い体は厳しい環境にも耐えることができ、草食動物にも全く好まれません。世界の他の地域では侵略的生物として扱われることもあります。今のところハワイでは侵略的ではありませんが、都市開発などで環境破壊が進むと増えすぎて他の海藻や生物の生息地を奪う可能性は十分あるので、注意が必要です。...

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プナホウカーニバルの話

この前の週末、ハワイは嵐で記録的な大雨が降りました。強風でカピオラニコミュニティカレッジで行われていたイベントの大型テントが崩れてけが人が出たり、木がなぎ倒されて道路が閉鎖されたりと、各地でその影響が見られました。その前の週末には、毎年恒例のプナホウカーニバルが行われていたので、1週間違っていたらカーニバルも大変なことになっていただろうなと思います。次女の妊娠中からプナホウカーニバルには行っていなかったのですが、今年は初めて家族4人で遊びに行ってきました。今回は、このプナホウカーニバルのお話です。 ご存知の方も多いと思いますが、プナホウカーニバルは名前の通り、ハワイトップクラスの私立校であるプナホウスクールで毎年2月最初の週末に2日間に渡って行われるカーニバルです。一番の目玉はやはり移動遊園地です。ハワイには遊園地がありませんので、年間を通してあちらこちらで行われるカーニバルの移動遊園地にたくさんの人が集まります。 またゲームも人気で、商品のぬいぐるみ(等身大ほどあるものも)を抱えた人たちがたくさん歩いているのもカーニバルの風物詩です。そして、プナホウカーニバルで忘れてはならないのがマラサダ。情報誌にも「今年もマラサダの時期が来たよ。」なんて紹介されるくらい名物なのですが、それが故にマラサダには超・超・長蛇の列が!何時間かかるかわからないので、我が家は今年は泣く泣く諦めました。数年ぶりのプナホウカーニバルはとても楽しかったので、また来年も行って、マラサダに再チャレンジしようと思います。...

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トランプ新大統領の話

ここのところハワイでは強風が吹き荒れることが多く、我が家の窓も割れるんじゃないかというくらいガタガタいう時があります。私の研究室仲間は、借りている家の屋根が吹き飛んでしまい、冗談交じりに「寝室に雨が降ってくるわー。」と嘆いていました。そんな荒天の中、 ついにドナルド・トランプ氏がアメリカの新大統領に就任しました。日本でも連日報道されていると思いますが、トランプ新大統領は就任前から色々と波紋を引き起こしています。今回は、彼の就任に対するハワイでの反応についてお話しさせていただきたいと思います。 ハワイは伝統的に民主党が優勢の州ですので、選挙結果はクリントン氏の圧勝でした。選挙結果が出た直後には、娘の学校の校長先生から「誰を支持する、しないに関わらず、この結果を学びの場に変えていきましょう。」という異例のメールが。それだけ保護者の間でも動揺がひどかったのだろうと伺えます。トランプ氏が移民に対して厳しいことから、留学生の多いハワイ大学からも学長のメールが送られてきました。 トランプ新大統領は気候変動を否定しているため、科学者からの反発は相当なものです。就任式の日にはハワイ大学内で、科学系の学部が主催する反トランプイベントや、大々的なデモが行われました。翌日に州議会議事堂の周りで行われたWomen’s Marchにも、男性女性問わず沢山の人が参加し、反トランプを訴えていました。異論の多い大統領令に次々にサインしているトランプ氏に対し、ハワイ州内では日に日に反発が強くなっているような気がします。...

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Rapid ‘Ohi‘a Death (オヒアの病気)の話

最近のハワイは雨が多く、うっかり普通の靴を履いてハワイ大学に行こうものなら絞れるくらい水に浸かってしまうような毎日です。ハワイの人はちょっとの雨なら傘をささず、雨に濡れたまま歩きますが、さすがにハワイ大学の学生はこの時期、傘所持率が非常に高いです。 さて、先日のことですが、今学期私が助手をしているクラスに、昔の植物学部の院生仲間がゲスト講師として来てくれました。彼女は修士を取らずに直接博士号を取得したので、私より先に卒業したのです。彼女はハワイ固有の陸上植物の種子を保存する専門家なのですが、先日の講義ではその本業の他に今彼女が取り組んでいるプロジェクトの話をしてくれました。“‘Ohi‘a Love”というそのプロジェクトは、クラウドファンディングで出資者を募り、オヒアの種子を採取、保存するものです。 フラを踊られる方でオヒアレフアをご存じない方はいらっしゃらないでしょう。オヒアはハワイの自然環境、文化共に非常に重要な植物です。そのオヒアが、今カビのような菌によって急速に死滅していっています。現在のところ、このRapid ‘Ohi‘a Deathと呼ばれる病気はハワイ島に限定されているのですが、‘Ohi‘a Loveプロジェクトは病気がこれ以上広がる前に健康なオヒアの種子を採取、保存するのを目的としています。主催の彼女は「日本からも何件か募金があったのよ。」と喜んでいました。もし彼女のプロジェクトに興味を持たれましたら、Ohia Loveで検索してみてください。...

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タコノマクラの話

私が子供の頃、海の生き物の図鑑で面白い形の生き物を見ては、「これはどうしてこんな形をしていて、中身はどうなっているんだろう?」と思いを馳せていました。そんな生き物の一つがタコノマクラ。薄っぺらい体の表に花のような模様があって、この模様は本当に自然にできるものなのか、とても不思議でした。しかも名前も印象的。今日はその、タコノマクラのお話をさせていただきたいと思います。 タコノマクラは棘皮動物門ウニ綱タコノマクラ目タコノマクラ科に属する生き物で、簡単に言えばウニの仲間です。しかしウニのように長いトゲではなく、細かいトゲで覆われています。大きさは約10cmで、砂の中に埋れて生息しています。棘皮動物の特徴の一つは五放射相称ですが(ヒトデなどはわかりやすいですね)、先に触れたタコノマクラの花型も5枚の花びら状になっています。 タコノマクラは見た目がお饅頭のような感じです。同じタコノマクラ目には、似たような見た目の「カシパン」科もありますから、やはり美味しそうに見えるのでしょう。ちなみにタコノマクラは英語名で”sea biscuits”(海のビスケット)、カシパンは”sea cookie”(海のクッキー)などと呼ばれることがありますから(カシパンは”sand dollar”と呼ばれる方がより一般的)、国が違ってもやはり食べ物に見えることに変わりはないのでしょう。でも要注意!タコのマクラやカシパンの仲間は、ウニと違って食べるところがほとんどなく、しかもかなり不味いそうです。...

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チョウチンアンコウの話

前回は深海に住むテンガイハタのお話をさせていだだきましたが、深海魚にはまだまだたくさん面白いものがいます。その中でも、チョウチンアンコウといえば、名前だけでもお馴染みなのではないでしょうか。今回は、このチョウチンアンコウについてお話しさせていただきたいと思います。 チョウチンアンコウは、アンコウ目チョウチンアンコウ科に属する魚です。ちなみにチョウチンアンコウ科には、チョウチンアンコウを含む18種が属しています。主に大西洋に分布していますが(英語名はAtlantic footballfish)、太平洋にも生息し、日本でも見られることがあります。生息水深はテンガイハタと同じ、水深200?800mの中深層が中心であると考えられています。体長は60cmほどになりますが、この大きさになるのは雌のみで、雄は4cmほどにしか成長しません。このように雄が雌より極端に小さいことを矮雄(わいゆう)と言います。チョウチンアンコウに近い仲間には、この小さい雄が雌に寄生し、口が雌の皮膚に完全にくっついてしまうものもあるのですが、チョウチンアンコウ科の雄は雌に寄生せずに自由生活を送ります。 さて、チョウチンアンコウといえば忘れてはいけないのが、その頭に付いている「提灯」ですよね。ご存知の方も多いと思いますが、これは餌をおびき寄せるために使われます。この釣竿のような器官は誘引突起(イリシウム)、その先端は擬餌状体(エスカ)と呼ばれます。このエスカが発光し、餌をおびき寄せるのです。...

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テンガイハタの話

私は物心ついた時から魚の図鑑を見るのが好きだったのですが、その中でもものすごく興味があったのが深海魚でした。深海魚は水族館などで生きているのを見ることがほぼできませんし、見た目が奇妙なものが多いというのも、興味をそそられる理由でした。今日はあまり見ることができない深海魚について。あまり見ることができないので、使える写真が標本しかありません。ご了承ください。今回はそんな魚の一つ、テンガイハタをご紹介したいと思います。 テンガイハタはアカマンボウ目フリソデウオ科に属する魚です。実際は深海魚というよりは、中深層と呼ばれる水深200-800mあたりに生息していると言われています。日本では房総半島から土佐湾にかけて、その他に中部太平洋やニュージーランドで見られるそうです。ハワイでは仲間のアカマンボウはよく水揚げされますが、テンガイハタについてはあまり知られていません。 テンガイハタは比較的大型の魚で、体長は160cmから、大きいものでは2mを優に超えます。私が惹かれるのはやはりその見た目です。と言っても、標本か写真か絵でしか見たことがありませんが。生きているテンガイハタは体表が全体的に銀色で、赤い背びれが頭部から尾部まで続いています。この背びれを波打つようにさせながら、立ち泳ぎをするようにして海中を漂うように泳ぎます。さらにテンガイハタは口が伸び縮みするらしく、クラゲや浮遊しているプランクトンを食べると言われていますが、詳しいことはまだよくわかっていません。こんな奇妙で大きな魚が海に生息していて、それがさらにどんな魚かまだよくわかっていない、というのが非常に面白いと思います。...

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伊勢海老(イセエビ)の話

今年のお正月のことですが、日本食スーパーにイセエビのお刺身が売られていました。お刺身になったイセエビ(というかイセエビ自体)、普段は売られていないので、「お正月っぽい!」とテンションが上がりました(ハワイにいるとお正月を感じにくいのです)。そこで今回は、このイセエビのお話をさせて頂きたいと思います。   イセエビは厳密に言うと、節足動物門軟甲綱十脚目イセエビ科イセエビ属に属し、日本近海のみに生息する大型エビの一種のみを指すのですが、もっと一般的には、イセエビ科に属する幾つかの種のことを言います。英語では“Spiny lobster”(スパイニー・ロブスター、棘だらけのロブスター)と呼ばれます。ちなみに、イセエビといわゆるロブスターは、実はちょっと違う生き物です。ロブスターは十脚目ザリガニ亜科に属していて、その分類の通りザリガニに近く、ハサミの大きい大型エビです(レッドロブスターの看板を思い出してもらえるとわかるのではないでしょうか)。これに対しイセエビは、大きなハサミを持っていません。   イセエビは世界中の暖かい海に分布していて、その多くがサンゴ礁などに隠れて生息しています。写真のアカイセエビは、小笠原諸島と伊豆諸島にのみ生息するイセエビの仲間です。ハワイにもハワイ固有のハワイイセエビが生息していて、よく漁の対象になっています。...

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シロイルカの話

先日、八景島シーパラダイスを紹介する日本のテレビ番組を見ました。八景島シーパラダイスは、子供の頃に見たシロイルカのテレビCMが非常に印象に残っています。一度だけ連れて行ったことのある長女も、シロイルカのことをよく覚えていました。そこで今回は、このシロイルカのお話をさせて頂きたいと思います。 シロイルカはクジラ目ハクジラ亜目イッカク科シロイルカ属に属する動物です。英語名ではBeluga(ベルーガ)と呼ばれます。体長は4?5mで、名前の通り体が白いのが特徴です。名前には「イルカ」とついていますが、イルカではなくどちらかというと小型のクジラになります。以前「イルカの話」の中でも触れていますが、実はイルカとクジラは生物学的に明確に分類されているわけではなく、体長が大体4m以下のハクジラをイルカと呼んでいるだけなのです。 シロイルカはもともとは北極海周辺に生息している動物ですので、ハワイで見ることはできません。体が白いのも、氷の多い極近辺においての保護色だからと言われています。珍しいのは、シロイルカが1年に一度脱皮をすること。シロイルカの赤ちゃんは灰色なのですが、成長とともに脱皮を繰り返し、徐々に白くなっていくのです。しかし脱皮と言っても、エビや蛇のように一度に全部がスルッと抜けるのではなく、底の石や岩に体を擦り付けて、表面の古くなった皮を剥ぎ取るようにして取り除いていきます。水族館で飼育されているシロイルカもプールの底や壁などに体を擦り付けて脱皮するようなので、次回水族館でシロイルカを見かけたら、よく観察してみようと思います。...